高齢になると「飲み込みにくい」のはなぜ?~見逃せない嚥下機能の低下とは~

「最近、食事中によくむせる…」
「お茶を飲んだだけで咳き込むことが増えた…」

こんなお悩み、ありませんか?
実はそれ、「年のせいだから」と見過ごしてはいけないかもしれません。

高齢になると、のどや舌、口の筋肉が衰えて、食べ物をうまく飲み込む「嚥下(えんげ)機能」が低下してしまうことがあります。
嚥下力の低下は誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)などの重大な病気のリスクにもつながります。


目次

飲み込み力が低下する主な理由

① 筋力の低下

飲み込むためには、実は舌・のど・あご・顔まわりなど、たくさんの筋肉が連動して働いています。
しかし、加齢とともにこれらの筋肉がだんだんと衰えていくことで、食べ物をスムーズに口からのどへ送り込む力が弱くなってしまいます。

特に、舌の動きが悪くなると、食べ物をまとめてのどへ運ぶことが難しくなり、口の中に食べ物が残ったり、誤って気道に入ってしまう危険性が高まります。
さらに、のどの奥にある「喉頭蓋(こうとうがい)」というふたのような部分も、筋力が落ちることで動きが鈍くなり、誤嚥(ごえん)しやすくなるのです。

また、全身の筋力低下(サルコペニア)と同じように、噛む力や頬の筋肉、顎の動きも衰えることで、食事の際のエネルギーが必要以上にかかり、「食べるのがつらい」と感じるようになってしまいます。

② 唾液の分泌量の減少

唾液には、「食べ物を湿らせてまとめる」「飲み込みやすくする」「口の中を清潔に保つ」といった大切な働きがあります。
ところが、年を重ねると、唾液の分泌が減少してしまう方が多くなります。

この原因はさまざまで、加齢そのものに加え、服用している薬の副作用(特に降圧剤や抗うつ薬など)や、ストレスや脱水の影響も関係します。

唾液が少ないと、口の中が乾いて食べ物がうまくまとまらず、パサパサして飲み込みづらいと感じたり、口内炎やむし歯、口臭などの原因にもなります。

③ 感覚の鈍化

食べ物がのどを通る際には、「のどに何かが入ってきた!」という感覚が必要不可欠です。
この感覚があることで、反射的に飲み込む動き(嚥下反射)や、気道にふたをする反射(咳反射)が働き、誤嚥を防いでいます。

しかし、加齢や脳卒中後遺症、糖尿病などの病気があると、のどの奥や気道まわりの感覚が鈍くなることがあります。
その結果、食べ物や飲み物が入り込んでも気づかずにむせたり、咳が出なかったりして、「静かな誤嚥」が起こりやすくなるのです。

「最近むせなくなったから安心」と思っていたら、実は感覚が鈍くなっていて、誤嚥しても気づけていないことも。こうした場合は、特に注意が必要です。


このように、「飲み込みにくくなる原因」は単なる筋力の問題だけでなく、口の中の環境や、感覚・神経の働きの低下も大きく関係しています。

「最近、食事のときに少し違和感がある」
「以前よりも食べるのが疲れる気がする」

そんな小さな変化も、早めに気づいて対策することが、誤嚥や肺炎の予防につながります。

なぜ筋力が衰えるのか?~「飲み込む力」の土台が弱くなる仕組み~

使わない筋肉は自然と減る(サルコペニア)

高齢になると、日常生活の活動量が減りやすくなります。
特に、かむ・飲み込むときに使う筋肉(舌、のど、頬、あごなど)も使わなければどんどん衰えていきます。
このような筋肉の減少は「サルコペニア(加齢性筋肉減少症)」と呼ばれ、飲み込みにも大きく影響します。

栄養不足や病気の影響

高齢になると、食欲の低下や歯のトラブル、薬の影響などで、必要な栄養が十分にとれなくなることがあります。
特に筋肉の材料となるたんぱく質が不足すると、全身の筋力低下が進みやすく、飲み込み力の衰えにもつながります。

神経の衰えも関係する

飲み込む動作は筋肉だけでなく、脳からの指令によって成り立っています。
年齢とともに神経伝達の働きが衰えると、筋肉の動きもスムーズにいかなくなり、嚥下機能が低下するのです。

嚥下機能が落ちたときの食事の工夫

飲み込みに不安がある方にとって、安全に・楽しく食べられる工夫はとても大切です。

🍽️ ① ペースト食(なめらかで飲み込みやすい)

ミキサーなどでなめらかにした、むせにくく、飲み込みやすい形状の食事です。
野菜や魚、肉、炭水化物も工夫次第でしっかり摂れます。

✅ 噛まずに食べられる
✅ 食品の形が残らず、安全
✅ 市販品や冷凍タイプもあり、手軽に導入可能

👇ペースト食の詳しい記事はこちら👇


🥄 ② とろみ食(飲み物や汁物にとろみをプラス)

年齢を重ねると、水やお茶、味噌汁などを飲んだだけで「ゴホッ」とむせてしまうことはありませんか?
それは、飲み物の動きが早すぎて、飲み込みのタイミングが間に合わなくなるからです。とくにサラサラした液体は気道に入りやすく、誤嚥性肺炎の原因にもなってしまいます。

そんな時に役立つのが「とろみ調整食品」です。

とろみを加えることで、飲み物の流れがゆっくりになり、飲み込むタイミングが合わせやすくなります。自分のペースでゆっくり飲むことができ、安心して水分補給ができるのがとろみ食の大きな魅力です。

✅ とろみの種類と選び方

とろみには、大きく分けて次の3段階があります:

  • 薄いとろみ(はちみつ程度):お茶やジュースに最初に試すときに。
  • 中間のとろみ(ヨーグルト状):汁物やスープに。
  • 濃いとろみ(プリン状):誤嚥リスクが高い方や、飲み込みに時間がかかる方に。

市販の「とろみ調整剤(パウダー)」は、すぐに溶けて使いやすく、味を邪魔しないものが多く出ています。使い方は、飲み物に少しずつ加えてスプーンで混ぜるだけ。家庭でも簡単に始められます。

✅ とろみをつけると、こんな良いことが!

  • お茶やスープがむせにくくなる:誤嚥予防の第一歩。
  • 飲み込むタイミングがつかみやすくなる:自信を持って食事ができる。
  • 水分補給が安全に行える:脱水予防にも役立つ。

特に、夏場の熱中症予防や冬の脱水対策にも、「とろみ水」や「とろみ緑茶」はとても有効です。

✅ 手軽に取り入れるコツ

「とろみって、なんだか面倒そう」と思うかもしれません。でも、以下のような工夫で毎日の食事に無理なく取り入れることができます。

  • お茶ポットにまとめて作っておく(冷蔵保存OK)
  • とろみ付きのゼリー飲料(市販)を活用
  • 外出先ではとろみ付き飲料やスティックタイプのとろみ剤を持ち歩く

💡「食べること」は、生きること。

食事は単なる栄養補給ではなく、「楽しみ」や「生きがい」でもあります。
とろみ食やペースト食は、食べる力が落ちた方の命を守るだけでなく、「自分で食べられた!」という自信にもつながります。

「最近むせるから、お茶を控えている」
「もう歳だから仕方ない」

そんなふうに我慢する必要はありません。
少しの工夫で、毎日の食事はもっと安全に、もっと美味しくなるのです。


🛒 とろみ食品や便利グッズも活用を

現在では、スーパーやドラッグストア、ネット通販でも「とろみ調整食品」や「嚥下サポート食品」が手軽に手に入ります。
初めての方でも使いやすいように、ゼリータイプの飲料あらかじめとろみがついた即席スープなども販売されています。

また、介護用のスプーンや、こぼれにくいコップなど、高齢者にやさしい食事グッズもたくさんあります。環境を整えることで、食事の不安やストレスをぐっと減らすことができますよ。


まとめ

「年をとったらむせるのは当たり前」ではありません。
小さな変化に気づくことが、大きなリスクを防ぐ第一歩。

「最近、飲み込みにくい」と感じたら、食事の工夫から始めてみませんか?

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この記事を書いた人

病院で働く管理栄養士しろです。
このブログでは、
✅ 栄養の基本知識
✅ 毎日の食事に役立つヒント
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などを、わかりやすくお届けしていきます。
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